本来、借主の退去時のハウスクリーニングとは、通常使用による損耗の回復とするため、貸主の負担で行うこととなります。しかし賃貸借契約時に、「借主の退去時のハウスクリーニングは借主の負担とし、借主は専門業者によるハウスクリーニング代○○万円を貸主に支払う。」という趣旨の特約を結ぶことで、ハウスクリーニング代を借主の負担としている契約が多いのが現実です。
今回ご紹介する重要判例は、平成25年5月判決(東京地裁)の判例です。借主が自らハウスクリーニングを行って退去したものの、貸主は当初の特約に基づいてハウスクリーニング代を敷金から差し引き、その残額を借主に返還したが、借主よりハウスクリーニング代の返還と慰謝料等の支払いを求めた事案です。判決の結果からご説明しますと、貸主はハウスクリーニング代全額を借主へ返還することになりました。尚、慰謝料に係る請求には理由がないということで、慰謝料の支払いは認められておりません。
さて、なぜ双方が特約で合意したハウスクリーニング代が返還されることになったのでしょうか?
①貸主はハウスクリーニングを専門業者に依頼せず、自ら床を拭いた程度
②借主の居住期間が短い
③特約に借主がハウスクリーニングを行った場合の対処方法の記載がない
ということが上げられます。しかし1番の原因は、別の所にあるような気がします。
今回の裁判で争ったハウスクリーニング代は、21,000円です。なぜ21,000円のために、共に利益のない争いをしなければならなかったのか? 恐らく、賃貸借契約締結前後や借主の居住期間中、そして借主の退去時の対応について、些細なことが積み重なっていたとしか思えてなりません。どちらが悪いかということは分かりませんが、訴えを起こした借主には、相当のストレスが溜まっていたのは間違いありません。
賃貸管理にはトラブルが付き物です。書類のやり取りだけでは、完璧な取引きはできません。結局は書類よりも経験よりも知識よりも、「誠実な対応」が一番大切となります。
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