近年、なぜ原状回復ガイドラインや賃貸住宅紛争防止条例が必要になったかというと、貸主と借主の間での修繕費用の負担に関する争いが年々増えていたことを鑑みて、ようやく国や地方自治体が重い腰を上げて紛争の事前防止に着手したからです。賃貸取引き、特に賃貸借契約後の賃貸管理の分野においては、借地借家法や宅地建物取引業法などの関連法規で定められていない部分が多々あり、紛争が生じた時には、慣習や判例及び大昔に制定され現代社会にはそぐわない条項がたくさん存在している民法を基に解決しなければなりませんでした。それでは、賃貸取引きの歴史を分かりやすい礼金制度を用いて、紐解いてみましょう。
太平洋戦争以前の日本では、絶対的に住宅の数が少なく、借主は借家を見つけるにも一苦労という時代だったようです。そのため借主はお部屋を貸してくれた貸主(地主)に対し、家賃とは別に「お礼金」を支払うという風土が根付き、今も尚「礼金」という形で引き継がれています。戦後、高度経済成長と共に住宅の建築も盛んに進められましたが、それ以上の人口の増加によって住宅難が続き、いつしか貸主(地主)が強く借主が弱いという立場が確立されました。その結果、壁や床などの経年劣化・通常損耗の原状回復までも、貸主は借主に負担させていたのです。
しかし1980年代後半から1990年代に掛け、不動産の価格は必ず上がると言われ続けてきた土地神話が、バブル経済と共に崩壊。その後、少子高齢化や人口減少の問題が浮き彫りとなってきてからは、完全に需要(借主)と供給(貸主)のバランスが逆転。その逆転期に貸主と借主のお互いの主張がぶつかり、争いが増えていたものと思われます。
昨今、民法が120年前ぶりに改正されるようですが、民法を改正することは簡単なことではなかったため、さすがに痺れを切らした国土交通省が平成10年にある一定の賃貸取引きの指針を示すために原状回復ガイドラインを作成。それに続いて東京都も同じような趣旨の賃貸住宅紛争防止条例を平成16年に公布したというのが今までの動きです。
このような時代の流れから、礼金というものも現代においては「悪しき習慣」が継承されていると考えることができるでしょう。
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